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東京地方裁判所 平成6年(ワ)10117号 判決

原告 福島キエ子

右訴訟代理人弁護士 緒方孝則

被告 明治生命保険相互会社

右代表者代表取締役 波多健治郎

右訴訟代理人弁護士 田邊雅延

佐藤道雄

市野澤要治

被告 株式会社東京三菱銀行

右代表者代表取締役 若井恒雄

被告 ダイヤモンド信用保証株式会社

右代表者代表取締役 横山欽一

右両名訴訟代理人弁護士 関沢正彦

主文

一  原告の主位的請求及び予備的請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一~第二≪省略≫

第三争点に対する判断

一  前記争いのない事実、≪証拠省略≫、証人直江正範及び同横井透の各証言、原告本人尋問の結果(後記採用しない部分を除く。)並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

1  壽義は、本件変額保険契約締結当時は八六歳であり、七二ないし七三歳ころまで静電防止器の研究などの技術職に従事していたが、右職を退いた後は職に就かず、収入は年金のみであった。原告は、右当時六六歳であり、昭和三三年五月二一日に壽義と結婚する以前に、旅館の手伝いをしていたことがあったが、右結婚後は職に就いたことはない。原告夫婦には、息子が二人いたが、既に独立して別居していた。

原告夫婦は、本件各契約締結以前、生命保険に加入したことや、担保を設定して借入れをしたことはなく、不動産もすべて自己資金により取得した。平成元年当時における原告の主な資産は、自宅である本件不動産、被告三菱銀行阿佐ヶ谷支店の預金(約三〇〇〇万円)、三菱重工株式及びダイヤモンド抵当証券などであった。

2  直江は、平成元年四月ないし五月ころ、同支店において開催された被告明治生命代理社主催の変額保険の説明会に出席し、右代理社作成のチラシ(≪証拠省略≫)並びに「銀行借入利用一時払終身保険による相続税納税資金繰りシミュレーション」のA案(≪証拠省略≫。以下「A案」という。)及び同B案(≪証拠省略≫。以下「B案」という。)と題する書面を入手した。右チラシには、「保険料を一銭も払わずに、高額の相続対策資金が準備できる理想の相続対策プラン(RITプラン)が開発されました!」と大きく記載され、「RITプランの仕組」として、「(1)被相続人および相続人全員が最高加入限度まで変額一時払終身保険に加入、(2)ご加入時に必要な一時払保険料は、ご所有の土地に根抵当を設定し、これに伴う登録税とともに全額銀行から借入、(3)毎年の利息は、その都度追加借入、(4)相続発生時には、相続人に対し高額の保険金と精算金が用意される一方、銀行借入による債務増大と一時払保険料の権利評価特例で相続税の課税価格を大幅に引き下げ」ると、「RITプランの例」として、被相続人が契約者となり、契約者本人とその配偶者及び子二人を被保険者として保険金総額一〇億円、支払保険料総額三億四九〇八万五〇〇〇円の保険に加入した例について、利回り九パーセントの場合の相続時収入及び節税額が記載されていた。また、A案及びB案は、いずれも、一般的な例として予想運用利率を九パーセント、借入利率を六パーセントとした場合の経過年数毎の相続税額の比較及び資金収支の比較を表にしたものであり、A案は、契約者本人が被保険者となる場合を、B案は、契約者の推定相続人が被保険者となる場合を、それぞれ想定したものであった。直江は、これらの書面のコピーを約五〇部作成して同支店に保管し、相続税対策を希望する顧客に対して配布するなどしていた。

3  原告夫婦は、被告三菱銀行阿佐ヶ谷支店に多額の預金を有し、同支店との長年の預金取引により、被告三菱銀行に信頼を寄せる顧客であり、直江とは顔見知りであった。直江は、同年九月ないし一〇月ころ、同支店を訪れた壽義に対し、右チラシを示して、相続税対策として変額保険という方法がある旨話したところ、壽義は、これに興味を示した。そこで、直江は、同月中旬ころ、再度同支店を訪れた壽義に対し、A案及びB案を示しながら、相続税対策として、一時払保険料を全額銀行から借入れて変額保険に加入することができること、右一時払保険料は、保険会社が株式や公社債等に投資して運用するものであること、壽義は高齢であるため、A案の方法をとることはできないが、B案は可能であること、変額保険は、保険料が株式等に投資して運用されるため、相場の変動とともに運用益が上下する商品であること、変額保険を相続対策の方法として利用するには、二次相続を視野に入れて長い目で見る必要があり、二次相続の際に納税資金を捻出するためには、中途解約するのはやめたほうがよいこと、基本保険金額は最低保証されていることなどを説明した。直江は、右当時における変額保険の運用実績について格別の調査をしたことはなかったが、保険外交員等から一二ないし一四パーセント位と聞き及んでいたところから、壽義に対する右説明に際しても、B案の「特別勘定の予想運用利率九%」と記載された部分の上に、「一二~一三%」と書き入れて、右当時における運用実績が年一二ないし一三パーセントであり、当時の銀行借入金の利率を上回る旨述べ、また、B案の一〇年後の予測として同案の収支欄の下に「四〇〇万」と書き入れて、解約返戻金が借入金の元利返済額を約四〇〇万円上回る旨述べた。

原告本人尋問の結果中には、直江は右説明の際、前記チラシの裏面(≪証拠省略≫)に、右肩上がりの棒グラフを書くなどして、ことさら変額保険の有利性を強調した旨の供述部分があるが、右チラシの裏面には、本件変額保険の一時払保険料を示す「78」との記載があるところ、この段階においては、右保険料の金額は確定していなかったのであるから、右裏面の記載はもっと後になって書かれたことが明らかであり、これと矛盾する原告本人の右供述部分は採用することができない。

4  壽義は、直江の右説明を聞き、変額保険の加入につき前向きに検討する旨答えた。直江は、担保物件の評価額を調査するため、壽義の同意を得て被告ダイヤモンドに同人の所有物件の事前調査を依頼した。ところが、その後、壽義から、直江に対し、原告自身も不動産を所有しているので、原告を契約者及び被保険者とするA案を検討したいとの申出があった。直江は、原告所有の本件土地の事前調査を被告ダイヤモンドに依頼したところ、極度額を一億六〇〇〇万円とする根抵当権の設定が可能であることの調査結果が出されたので、基本保険金額を一億五〇〇〇万円と算定し、同年一一月下旬、被告明治生命阿佐ヶ谷営業所長の横井に対し、変額保険の見込客として原告を紹介し、右事前調査の結果及び原告の生年月日等の情報を提供した上で、右基本保険金額の設計書を作成して持参するよう依頼した。横井は、設計書を三部作成し、うち二部(≪証拠省略≫)をそのころ直江に届けた。直江は、その数日後、原告夫婦に対して、被告三菱銀行阿佐ヶ谷支店に来店するよう求めるとともに、横井に対しても、同月二九日に原告夫婦が来店するので、保険内容の説明のため同支店に来店するよう依頼した。

5  直江及び横井は、同日、被告三菱銀行阿佐ヶ谷支店において、原告夫婦に対し、次のとおり、変額保険の説明等をした。

(一)  直江は、変額保険を用いた相続税対策の概要、本件変額保険契約の一時払保険料は被告三菱銀行が全額融資すること、極度額一億六〇〇〇万円の限度で融資が可能であること、被告ダイヤモンドが原告との間の保証委託契約につき、原告が本件融資契約に基づいて負担する債務を連帯して保証することなどを、担保物件についての事前調査票を示しながら説明し、「相続対策に良いので、坊ちゃん方にいいプレゼントになりますよ。」と述べた。右説明に不安を感じた原告は、直江に対し、「担保を付けて土地を取られるなんてことないでしょうね。」と問いただしたところ、直江は、自らが信じていた前記運用実績についての予測をもとに大丈夫だと思う旨述べ、「三菱銀行を信用してください」と付け加えた(直江が、右楽観的な予測をもとに、被告三菱銀行の信用力を利用して、原告夫婦の不安を解消しようとしていたことは、前記チラシの裏面の記載からも推認することができる。)。

(二)  一方、横井は、原告夫婦に対し、設計書(≪証拠省略≫)を提示した上でパンフレット(≪証拠省略≫)とともに交付した。右パンフレットには、「変額保険は保険金額・返戻金額が変動するしくみの保険です。」と記載され、太字で「実際のお受取額は、運用実績および配当実績により変動(増減)しますので、将来のお支払額をお約束するものではありません。」と記載され、運用実績に応じて保険金額が変動すること、死亡・高度障害保険金には最低保証があること等変額保険の仕組みの要点が図を用いて明記されており、併せて運用実績九パーセント、四・五パーセント及び〇パーセントの各場合の解約返戻金及び保険金額を示した表が掲げられ、太字で「ご契約者は、経済情勢や運用如何により高い収益を期待できますが、一方で株価の低下や為替の変動による投資リスクを負う」旨記載されていた。また、右設計書には、「変額保険のしくみ」として、右と同様の変額保険の仕組みの要点が図を用いて明記されており、併せて、運用実績九パーセント、四・五パーセント及び〇パーセントの各場合における原告の年齢、性別、基本保険金額に対応する具体的な経過年数毎の保険金額及び解約返戻金額を記載した表が掲げられ、その上部には、太字で「運用実績及び配当実績により変動(上下)しますので、将来のお支払額をお約束するものではありません。」との注意書きが記載され、右パンフレットと同様のリスクに関する説明も記載されていた。横井は、右パンフレット及び設計書に基づき、①本件保険が一時払終身型変額保険(基本保険金一億五〇〇〇万円)であること、②保険料は、一般の保険と異なり特別勘定により、主に株式や公社債に投資して運用されること、③保険金及び解約返戻金は運用実績によって変動するが、基本保険金額の一億五〇〇〇万円は最低限度保証されること、④右設計書の運用実績表に基づく運用実績が九パーセント、四・五パーセント及び〇パーセントの各場合の解約返戻金額及び保険金額の推移などを説明した。

(三)  以上の説明に要した時間は約一時間であり、その間、原告夫婦からは、右以外にはほとんど質問はなかった。

(四)  以上の認定に関し、原告本人尋問の結果中には、説明をしたのは専ら直江であって、横井は何ら説明をせず、右設計書を用いた説明もなかった旨の供述部分がある。しかし、生命保険会社の担当者が同席していながら、変額保険について格別の知識を持たず、保険料支払のための融資をするにすぎない銀行の担当者が変額保険契約についての内容を専ら説明するということは不自然であり、また、保険料の額の説明には設計書が不可欠であると考えられるのに、事前に用意されていた(このことは当事者間に争いがない。)設計書を用いずに説明を行うということも不自然であるから、原告夫婦のいずれもが右設計書も見なかったという右供述部分は採用することができない。

6  原告夫婦は、同年一二月上旬ころ、原告において本件変額保険契約の加入の申込をすることを決め、直江を通じ、横井に対してその旨通知した。そこで、横井は、同月六日、被告明治生命の診査医である訴外田口祐二郎を原告宅へ同行し、右田口が原告の保険加入に必要な健康診査を行った。

横井は、同日、被告三菱銀行阿佐ヶ谷支店において、原告夫婦に対し、変額保険の主要な事項の説明及び本件変額保険契約の契約条項が記載された「ご契約のしおり 定款・約款」(≪証拠省略≫)を交付した。原告は、本件変額保険契約締結の申込書(≪証拠省略≫)に署名押印をした。

原告本人尋問の結果中には、右「ご契約のしおり 定款・約款」の受領の事実を否定する旨の供述部分がある。しかし、≪証拠省略≫及び原告本人尋問の結果によれば、原告は右申込書の「ご契約のしおり 定款・約款ご受領印」の欄に実印を自ら押印していることが認められること、原告は、右本人尋問において、被告明治生命からいかなる書類を受領したかということにつき明確な供述をしていないこと、一方、証人横井透は、右書面を交付した旨明確に供述していることに照らし、原告の右供述部分は採用することができない。

7  本件融資契約、本件保証委託契約及び本件土地についての根抵当権設定契約に関する手続は、同月二二日、被告三菱銀行阿佐ヶ谷支店応接室で、原告夫婦、直江及び貸付担当者が同席して行われた。その際、直江は、本件融資契約の融資金は五年間の利息をも含めたものであり、五年後に追加融資を行うこと、被告ダイヤモンドが保証を行い、同社が債権者となって本件不動産に極度額一億六〇〇〇万円の根抵当権を設定することを説明した。同日、本件融資契約が実行され、同月二五日、その融資金から本件変額保険契約の一時払保険料が、被告明治生命に対し支払われた。

8  平成二年二月一日を契約日として、本件変額保険契約が成立し、被告明治生命は原告に対し生命保険証券(≪証拠省略≫と同一の様式)を送付した。

二  争点1(要素の錯誤)について

1  原告は、直江の説明により、本件変額保険が、借入金返済のための新たな金銭的負担を伴うことなく相続税対策となるものであり、二〇年後には一億五〇〇〇万円の保険金が支払われる旨誤信して右契約を締結した旨主張し、原告本人尋問の結果中には、原告は、本件変額保険契約及び本件融資契約に関する書類を全く検討することもせず、生命保険に加入するという認識も、銀行から借り入れをするという認識もなく、ただ、一銭も支払うことなく相続対策になるものであり、二〇年後には一億五〇〇〇万円が支払われるとの認識しかなかった等、原告の右主張に沿う供述部分がある。

しかし、いかに原告夫婦が被告三菱銀行に信頼を寄せていたとはいえ、契約内容についての書面を全く検討することなく、右程度の漠然とした認識しか持たずに、多額の保険料を借入金によって支払う契約を締結するというのはそれ自体極めて不自然であるし、直江及び横井が原告夫婦に対してした本件変額保険に関する説明の状況及び本件変額保険契約締結に至るまでの経過は前示認定のとおりであるところ、原告夫婦は、本件変額保険契約締結に至るまで一か月以上の期間、変額保険について検討を加えていることが窺えるのであり、右契約締結の際における直江及び横井の説明内容及びこのときに交付された資料の記載内容に照らすと、原告夫婦は、右資料を一見するだけで、少なくとも被告明治生命との間で保険契約を締結し、その保険料支払のため被告三菱銀行から借入れをすることくらいは了知し得たものというべきであるうえ、保険契約締結前には診査医の診断をも受けているのであるから、保険に加入し、融資を受ける意識もなかったなどとそのすべてを否定する原告の右供述部分は容易に信用し難い。

2  また、本件変額保険契約及び本件融資契約を締結しても、支払保険料の運用益が将来も銀行借入金の利率を上回り、右借入元利金の返済はすべて右運用益でまかなうことができる旨誤信したという供述部分に関しても、前示認定の事実によれば、横井は、原告夫婦に対して、本件変額保険契約の仕組みが記載された設計書及びパンフレットを交付し、これに基づき、変額保険が確定利回りではなく、基本保険金は最低限度保証されるが、解約返戻金が払込保険料を下回るいわゆる元本割れの可能性を有するものであることを説明していること、本件全証拠によっても、直江又は横井が、本件変額保険契約についてその運用実績が将来にわたって銀行借入金の利率を上回り、中途解約した場合でも解約返戻金が右借入金元利合計を確実に上回る旨の断定的な説明をした事実を認めることはできないこと、原告は、直江に対し、「担保に入れた土地を取られることはないでしょうね」と質問しているが、そうであれば、原告夫婦において、本件融資契約による借入金の担保のために原告所有の不動産に根抵当権を設定すること及び本件変額保険契約の運用が思わしくない場合には解約返戻金ないし保険金で右借入元利金を完済できなくなり、右根抵当権が実行される可能性があることを認識していたものと推認されることに照らし、原告本人の右供述部分も採用し難い。

そして、直江及び横井の右説明は、原告夫婦が、本件変額保険契約の内容につき、支払保険料を保険会社において運用するものであり、運用実績如何によっては、解約返戻金ないし保険金が支払保険料を下回る可能性があり、本件融資契約について、利息分をも含めた借入金が増大し、右借入金の返済のために新たな金銭的負担の必要が生じる可能性があるということを理解し得るようなものであったといえる。そして、原告の直江に対する質問に対し、直江が「銀行を信用して下さい」と返答したことは、当時の経済情勢に照らして右可能性は少ないという趣旨のものであるというにすぎず、また、直江が、年一二ないし一三パーセントの運用利回りが見込める旨述べたことも、当時の経済情勢を前提とする将来についての予測の域を出るものではないので、本件変額保険契約締結の際の原告の合理的判断を妨げるようなものであるとはいえない。

また、原告本人尋問の結果中には、右説明当時、壽義が老人性痴呆症の状態であった旨の供述部分があるが、前示認定の事実によれば、壽義が老人性痴呆症により判断能力を欠くような状態にあったことは認められないし、本件変額保険契約を締結したのは、壽義ではなく原告であり、壽義が判断能力を欠くのであれば、原告において壽義の意思に従いあえて本件変額保険契約を締結しなければならない事情にはなかったのであるから、原告本人の右供述部分は採用することはできない。

以上によれば、本件変額保険契約、本件融資契約及び本件保証委託契約締結の意思表示に、原告主張のような要素の錯誤があったということはできず、他に原告主張の事実を認めるに足る証拠はない。

二  争点2(説明義務違反)について

1  原告は、被告明治生命及び被告三菱銀行の各担当者は原告に対し、本件変額保険契約ないし本件融資契約締結に当たりその仕組み及び危険性について説明する義務があるのに、これを怠った旨主張する。

しかし、横井が原告夫婦に対して、本件変額保険契約の仕組み及び危険性に関し、保険金及び解約返戻金が運用により変動するものである旨記載された設計書及びパンフレットを交付したうえ、保険料が特別勘定で、主に株式や公社債に投資して運用され、保険金及び解約返戻金が運用実績によって変動し、解約返戻金が支払保険料を下回るいわゆる元本割れの可能性があることなどについて説明を行ったことは前示認定のとおりであり、右説明は、原告夫婦において本件変額保険の仕組み等を理解し得る程度のものであったと解されるから、横井が本件変額保険契約締結に当たり原告主張の説明義務を怠ったということはできない。

2  次に、銀行の融資契約と保険契約は別個の契約であって、保険契約についての説明義務は、契約の当事者である保険会社が負っているものであり、変額保険の勧誘をなしうるのは販売資格を有する者に限定されているのであるから、本件変額保険契約の当事者ではない被告三菱銀行の従業員である直江に、本件変額保険契約の内容について原告主張のような説明義務はない。

直江は、本件変額保険契約締結前に、壽義に対して、変額保険を利用した相続対策の概要を説明し、運用実績が一二ないし一三パーセントは見込めるので、解約返戻金により本件融資契約の借入金の返済が十分可能であり、相続税対策として有効である旨述べ、基本保険金額の算定も直江が実質的に決定しているなど、本件融資契約締結のみならず、本件変額保険契約締結に向け、原告夫婦に対する積極的な働きかけをしていたことが窺われる。しかし、本件変額保険に関して、被告三菱銀行と被告明治生命が提携関係にあったことを認めるに足る証拠はないし、右直江の言動も予測の域を出るものではなく、いわゆるバブル経済崩壊前である当時の経済情勢を前提とすれば、明らかに誤っているとまでいえないことは前示説示のとおりであって、原告夫婦は、その後横井から前記のような説明を受けているのであるから、原告が、直江の右言動によって、本件変額保険契約締結につき合理的判断を妨げられたということもできない。直江が、被告三菱銀行を信用するよう述べて、原告夫婦の被告銀行に対する信頼を利用しようとしたことは、社会的相当性の域を逸脱した嫌いがあるが、前記の説明状況全体に鑑みると、直江の右言動は、以上の判断を左右しない。

そして、直江は、本件融資契約及び本件保証委託契約について、前記のとおりの説明をしているところ、右直江の説明は、原告夫婦が、本件融資契約について、利息分をも含めた借入金が増大し、右借入金の返済のために新たな金銭的負担の必要が生じる可能性があるということを理解し得るようなものであったものと解される。したがって、直江が本件融資契約及び本件保証委託契約締結に当たり、原告主張の説明義務を怠ったということはできない。

三  結論

以上によれば、原告の本訴請求は、主位的請求及び予備的請求とも、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がないから、これを棄却することとする。

よって、訴訟費用の負担につき、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 長野益三 裁判官 玉越義雄 名越聡子)

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